
人間は日々、選択を繰り返しながら生きています。選択を決定をする時に、
「知っていて、敢えて自分の意思で選択しない」のと、「知らなかったから選択すらできなかった」は、同じ選択しなかった、と言う結論であっても全く異なります。
なぜこの話題に触れたかと言うと、
これまでの、そして今も日々、同年代との会話や診療において、ホルモン補充療法の認知度の低さ、誤解や偏見の多さに直面するからです。
一昔前(産婦人科医の父の時代)には、ホルモン剤は怖い副作用がある恐ろしい薬と言われていました。ホルモン剤は酷い吐き気を起こす、太る、癌になる、などと言われていました。そこには真実な部分と誤解が混在しています。ホルモン剤はどんどん改良され、服用しやすくなっています。

2003年WHI(米国国立衛生研究所)の研究結果が公表され、ホルモン補充療法はメリットよりもリスクの方が高い治療だと報道されました。その後の研究調査で、訂正されましたが、この一件で、日本人のホルモン剤に対するアレルギーのようか反応が増幅したのを日々の臨床においてヒシヒシと感じた事を覚えています。
体内で生成される多種のホルモンは、私たちの(男女ともに)身体を、生命を、維持するために必要不可欠なものです。にも関わらず、女性ホルモンは閉経という月経の終焉というイベントとともに分泌が完全に止まってしまいます。
100年前には、もっと短命だった私たちは閉経後の事など考える必要もなかったかもしれません。ですが、現代では、閉経後の人生が、初潮から閉経までの期間とほぼ同じ約40年ほどもあるのです。
女性ホルモンが分泌されなくなると、骨密度低下、血圧上昇、皮膚・粘膜の萎縮、分泌物(涙、唾液、膣分泌物)低下、関節の炎症・変形、認知機能低下、など女性ホルモンが関与するあらゆるところに問題を生じていきます。
私は、父の考え方に影響を受け、早くから(医師になってすぐから)ホルモン補充療法に肯定的で、積極的に推奨してきました。
更年期症状と言われる様々な自覚症状(ほてり、発汗、めまい、頭痛etc)が具体的無くても、自覚のないまま、変化・老化は進行していくため、都度、説明してホルモン剤の処方を多くの方々に処方してきました。少量のホルモン剤をお守りのように100歳超えても服用していらしたおばあちゃまもいらっしゃいました。
いったん変化したものを元に戻すことはできません。不可逆的な変化(老化)に至る前、閉経期〜閉経後5年以内に開始する事がリスクが少なく効果的だとされています。
発癌(乳癌、子宮体癌)を心配する声も聞きますが、投与5年間までなら、非投与群と優位差はなく、また癌に関しては肥満など他のリスク因子の影響などの方が高いともされています。もちろんホルモン補充療法をされる方には定期的な癌検診を必ず受けていただいています。
中には既往歴や体質など、残念ながらホルモン剤を投与できない方もいますが、そう言った禁忌事項がない限り、私はなるべく多くの方々にホルモン補充療法を取り入れて、健やかな人生を送っていただきたいと願っています。
まずは、知っていただく事。選択は自由です。閉経後の人生をどう生きたいか、その選択肢の中に、ホルモン補充療法も検討してもらえるようになって欲しいと切に願っています。
